善良な町長の物語
善良な町長の物語
「善良な町長の物語」という小説を読みました。あらすじを読んだだけでは、この物語のおもしろさはわからないとおもいます。まあ、あらすじだけで、その物語がおもしろいかなんてわかったためしがないんですが。
とりあえずそのあらすじ…善良な町長ティボが、その秘書であり人妻のアガーテに恋をする…という話らしい。
私はとたんにいやな予感がしました。普段から町民の視線を一番浴びている人の道ならぬ恋。万が一その恋がうまくいったとしても、そのことはすぐ世間に知れ、善良と言われる男の裏の顔などとでたらめを捏造され、町民からののしられ、ラース・フォン・トリアーの映画ばりにふたりは不幸になっていくんだろう、と。
年のせいか、最近物語の中で、主人公がピンチになったり、誰かに陥れられたり、とにかく悲しい状況になることに耐えられなくなってきました。読んでてつらいのです。
このごろは、なにか事件がおこるたび、数ページ先を読んで事件が解決するのを見届けてから、よし、大丈夫!と、自分に言い聞かせ、ようやく読むことが出来たり、時には読み飛ばしたりします。
なので、こういう嫌な予感のする本はふつうなら絶対買わないのですが、ベラスケスの「鏡のビーナス」の絵画の装丁がとても上品で素敵だったのと(海外版の表紙のデリカシーのなさよ。)、少し冒頭を読んで、物の見方やその表現が、興味深いとおもったのと、この文章を書く人はラース・フォン・トリアーじゃない、と思えたので。
心に何か残るってタイプの物語じゃないけど(あ、わたしにとってはってことで…)、読んでいる間は楽しくって、ふたりが恋に落ちていくあたりでは、あまりのかわいらしさ、描写のおもしろさに、ちょっと声に出して笑ってしまったほどです。この部分だけの物語を別に一冊読みたいくらい。
翻訳者さんも上手いとおもう。翻訳された文章を違和感なく読めるって、なかなかない。
途中、もちろんふたりはつらい状況になったりもします。でも、たぶんこの物語が誰視点なのかということに影響を受けていて、全体的にあたたかいものに包まれ、ほんわか楽しく読めました。
『善良な町長の物語』
アンドリュー・ニコル 著
スコットランド